実行委員のひとりとして多少なりともDroidKaigi 2020の準備に関わった立場から、今回の中止に関して感じたことを簡単に備忘も兼ねて書いておきます。
私のDroidKaigiでの立場は、ボランティアスタッフとしての実行委員であり、中止決定や予算執行に関して何かの決定権を持っている訳ではありません。
1月中旬
この頃、新型コロナウイルスが中国で脅威になりつつあることは盛んに報道されていました。しかしまだ日本国内に感染者はいませんでした。DroidKaigiには海外からの参加者もおり、何かしらの影響があるかもしれないと少し感じていました。具体的に何が起きるかは想像もつきませんでした。
1月27日
1/30のUnity道場を中止するという告知が流れました。この日から私はDroidKaigi 2020でも対応が必要だということを考えはじめました。日本政府が、武漢にいる在留邦人を帰国させるチャーター便の運行を始めたのが1/28です。
1月29日
実行委員会の定例会がありました。私は不参加だったのですが「中止の可能性もありえる」と議事録に記載されています。1月30日
武漢から第1便のチャーター便で帰国した方の中に感染者がいることが判明し、単なる対岸の火事ではない深刻な事態であることが少しずつわかりはじめした。DroidKaigi 2020のチケットは販売時に「返金不可」と明示していましたが、中止は想定していなかったため、中止時のチケットの取り扱いについては何も決めていませんでした。
そこで、「参加者が不安にならないよう、チケットの返金を可能にしよう」と提案しました。
中止の可能性も現実味を及びてきたので、中止の可能性についても含めて公表することになりました。海外を含め遠方から参加する方が少なくないため、中止の可能性については早めに開示した方がいいと考えていました。
中止決定のデッドラインは開催前日の2/19としました。この日は会場設営の予定日であり、設営前に中止するかどうか決める必要があったためです。
1月31日
きのう合意した内容が公表されました。早速チケット販売に利用したDoorKeeperから返金のリクエスト通知が届きはじめました。しかし1日あたり数件程度で、そんなに多いものではありませんでした。DoorKeeperは自動で返金処理ができないため、手の空いているスタッフが1件ずつ手動で対応していました。
20日以上も前に中止の可能性を開示したため、Twitterなどで見ている限りでは、おおむね好意的な反応をいただいたと思っています。
2月5日
中止の可能性について開示してから約1週間が経ち、他のイベントの中止情報が少しずつですが流れてくるようになりました。講演者からのキャンセル連絡も届きはじめました。報道によれば中国のみならず日本を含めた各国で感染者数は増大する一方で、事態が改善するよな傾向は一向に見えませんでした。
私はこの頃から「このまま事態が推移すればDroidKaigi 2020は中止するしかない」と考えるようになりました。しかし、まだそのことは誰にも言いませんでした。
他のスタッフがどう考えていたのかわかりませんが、準備は着々と進められていました。
2月7日
当日のスタッフの作業割り当てが決まりました。私は心の中で、「中止の可能性は50%」と考えていました。
中止するかどうかの具体的な検討はまだ何もされていませんでしたが、他のイベントの中止情報は収集して、実行委員会内部で共有していました。海外参加者のキャンセルの可能性などは十分にありえたので、対応方針が決められました。
この頃、会場側の関連業者には「中止の可能性がある」という連絡を入れていたそうです。私は後日知りました。
2月12日
実行委員会の定例会がありました。本番1週間前で、最後の定例会です。中止に関する議論はされましたが、具体的な決定はありませんでした。2月13日
2/24-27にバルセロナで開催予定であったMWCの中止が発表されました。MWCはモバイル業界で世界最大規模の展示会です。DroidKaigiと直接の関連は何もありませんが、同じ業界のイベントなので注目はしていました。出典企業のキャンセルも数日前から相次いでいました。しかし展示会自体が中止になるとは全く想定していなかったので驚きました。実行委員の中から「アフターパーティを中止してはどうか」という案が出ました。
しかし、チケット代に含まれるアフターパーティ費用の割合を算出するのが難しかったのと、DoorKeeperに一部返金の機能がないことがわかり、この案は流れました。
講演者のキャンセルで中止になったセッションと当日の対応方針については公表することとしました。(実際には翌日に公開されました)
2月14日
2/27-3/1に開催予定されていたCP+2020が中止になりました。日本国内の大規模なイベントとしては初めての中止発表ではなかったかと思います。2月15日
日本国内で、屋形船の宴会で感染が発生したことがわかりました。これはMWCの中止決定に続いてダブルパンチでした。
多くの人が集まって会食をすることで、感染リスクが高まることが判明したのです。
これまでDroidKaigiは昼食やパーティなど、飲食関係のサービスに力を入れてきました。理由は単純で、そうした方が来場者の満足度が高まる傾向が知られているからです。
こんな状況下で、DroidKaigiを開催する意味はあるのだろうか…
中止すれば今までの準備は全てパアですし、巨額のキャンセル費用が発生するのも目に見えています。DroidKaigiが興業中止保険に加入していないことは知っていましたが、興行中止保険に加入していたとしても今回のケースでは役に立たないこともわかっていました。
ISSCCのprogram committeeをされている竹内先生のnoteは考えさせられました。
DroidKaigiにも少なからず海外からの参加者がいます。
自発的なキャンセルがなくても、彼らが日本へ渡航することによって影響を受ける可能性は大いに考えられました。
当日まであと1週間に迫り、開催準備は順調に進んでいました。
2月16日
前夜、私は一晩考えました。考えた結果「正しいかどうかはわからないが、DroidKaigi 2020はもう中止した方がいいだろう」と決めました。
中止した方がいいと自信を持っていた訳ではありませんが、心の中では腹をくくりました。
この日まで、実行委員の間で中止の可能性についての話題は何度も出ていましたが、「中止しよう」とはっきりと言い出したスタッフはまだ誰もいませんでした。
そう決めたら、私はすぐに実行委員会のSlackに中止の提案を書き込みました。朝の6時49分でした。
私の提案を受けて、午前11時に緊急の実行委員会の招集がかかりました。午後1時からGoogleハングアウトで会議が始まりました。
確か25人くらい参加したと思います。
1時間ほど議論しました。色々な意見が出ました。中止に反対する意見も少なからずありました。
最終的には次のような事情を考慮した上で、中止が決まりました。
- 昨今の状況において都内における新型コロナウイルス保菌者との接触率が高まりが予見され、当日の十分な安全確保の難しさが見られること
- 関連業界の各社において集会への参加の自粛要請が発表され、参加者をはじめ講演者およびスタッフの当日参加が難しくなってきていること
- 講演者のキャンセル率が一定を超え、今後も開催までに高まることが予想されること
14時に、次の短いステートメントが公開されました。
2月16日 14時00分 更新
DroidKaigi 代表理事の mhidakaです。
大変残念ですが昨今の新型コロナウイルス感染症に関わる状況の変化を鑑み、現時点をもってDroidKaigi 2020の中止を発表いたします。
2月20日-21日の開催は中止となります。
今後の代替開催の実現可能性を含め延期の対応についてはDroidKaigi運営委員会にて引き続き検討を行っております。詳細が決まり次第ご案内します。
DroidKaigi 2020は国際会議として相応しい400以上のセッション応募から選りすぐられた80のセッションと合計1400人に及ぶ来場者・講演者が集うカンファレンスです。誠に遺憾ではありますが来場者や講演者、イベントを支えるボランティアスタッフ、みなさまの健康を第一に考えた結果、中止を決定いたしました。
DroidKaigiは今後もAndroid開発の知見を共有する価値を提供していきたいと考えています。準備のために尽力いただいた皆様に改めて御礼を申し上げます。決定にご理解を頂けますと幸いです。
販売済みのチケットの返金については本記事で予め公開したとおり対応させていただきます。
以上
最後に
スタッフとしての個人の体験と感想を書きました。内容は主観的なものを多く含んでおり、事実を正確に反映していない可能性があります。DroidKaigi 2020については、各種キャンセルの手続きなど、まだ現在進行中の事象が数多くあります。いちスタッフでしかない私が知らない事実もある筈です。全てを明らかにすることは不可能です。
しかし千人規模の大きなイベントに関わる事象であり、多少なりとも情報を共有した方がいいと考えて公開することにしました。少しでも関係者やコミュニティ活動に関わる皆様のご参考になればと思います。